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行政改革―役所の業務革新のススメ
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1 地方自治体の財政破たん

ある日突然、市立図書館が閉鎖され、市民プールから水が抜かれる。

ごみの回収は週1度になり、学童保育や健康診断は打ち切られる。

市民病院の入院患者は他の民間病院へ転院させられ、閉鎖される。

これは、近い将来日本の地方自治体で起こりうることです。

既に市民病院等の閉鎖縮小は、日本でも起こっています。

アメリカにおいては、90年代半ばから破たんする自治体が増え、2011年10月には、アラバマ州ジェフアーソン郡が3200億円という負債を抱えて破たんしています。

公の施設は閉鎖され、警察官、消防士、教員などが大幅に削減されました。

住民が自警団を作って街を守っています。

教育や福祉どころか安全すら脅かされる状況になっています。

今、日本は、900兆円を超える国・地方の長期債務を抱え、GDP比200%にも達しようとしており、先進国中では、最も財政悪化が進んでいます。

国家財政は、家計に例えれば、年収が500万円しかないのに出費は

950万円あり、借金が6千万円以上もあるのです。

このままで借金返せると思いますか? 

地方の実家に170万円も仕送りし続けることができるでしょうか? 

早晩国家の財政が今以上にひっ迫し、

地方に対する交付税も大幅に減らさざるを得ない時が来ると思います。

その時に、地方自治体はやっていけるのでしょうか? 

多くの地方自治体は、国から交付税で運営されています。

不交付の自治体は、2011年には1742の地方自治体中59団体しかありません。

小泉内閣が地方への交付金を大幅に削ったために、地方自治体は大幅な人員削減等に取り組んできましたが、それでも財政状況は悪化しています。

地方自治体への交付税が、さらに削減されると、人件費などの義務的な経費だけで費え、教育や福祉、橋などの架け替え、道路の維持補修など住民サービスが十分できなくなります。

これまでの快適な生活を支えた文化施設や体育館、公民館、橋梁、

道路など1960年代から70年代に建設した建物等はこれから耐用年数を迎えますが、これらを建て直すお金は十分あるでしょうか。

ないと思います。これまでの生活は続かないのです。

行財政運営すべてについて徹底した見直しをしなければなりません。

国の借金は1000兆円にならんとしていますから、

行政コストを少しばかり下げても、焼け石に水、で消費税等の増税は必至なのかもしれません。

しかし、国も地方自治体も長い間に肥大化した行政国家のぜい肉を剥がす取組みをまだしていません。

これまでの仕事のやり方を一度全部見直さなければならない時期に来ているのです。

2 橋を修理できない?

これまで役所では、不要な仕事はないという前提で仕事をしていると思います。

一度議会で質問されたら、そのための資料を毎年作成し続ける。

だから仕事は増え続ける。

また、どんなに効率が悪くても、必要だと決めればやり続ける。

効果とコストを比較衡量してやめるという決断はなかなかできない。

また、期限でしか仕事をしていない。

仕事の出来栄え(質)と仕事にかける所要時間(リードタイム)という発想がない。

期限までにやればよかったのです。標準処理日数を設けているところでも、

その期間内にやればいいのです。

許認可を待つ住民が1日ごとに何万円もの利益を失うとしても関係ない。

少しでも早く国民・住民のために仕事をやるという発想自体がありませんし、

そういう職員教育をしてきませんでした。これも変えなければなりません。

仕事にスピードを求める必要があるのです。

早くできる職員と時間がかかる職員の評価が同じでいいのでしょうか。

それも変えなければなりません。それによって仕事の質も、コストも変わるのです。

さらに、役所では、企画や判断などの業務は時間やコストでは測れないといって、

多くのムダが改善されず膨大なコストを食っているのです。

この旧態依然のやり方を改めるだけでも、行政コストは下がります。

人員は減らすことができます。

よく、役所の仕事のムダを取るというと、「役所には無駄はない」とか、

「役所の仕事は工場などの現場と違って政策立案などの企画や判断なので、

時間やコストという感覚はなじまない」と言われますが、

本当に役所にはムダな仕事はないでしょうか。

否。役所の仕事を分析してみればわかることですが、8割方は定型業務なのです。

企画や判断の仕事をするのは限られた部門と職員だけです。

その他の部門では、企画と判断をするのは起案する担当者と決裁する管理職が主であり、他の中間管理職は経由しているのです。

間違いを減らすためには経由する関門は多い方がよいかもしれませんが、

千円の消耗品を買うにも、書類を起案し、5人10人のハンコをもらって数日を要して初めて買えるというのは業務プロセスとしてはやはり無駄です。

千円の物を買うのに適正を期して、時間コストにして数万円もかけるなら、

何百回に1回失敗しても担当者に任せた方が安いのです。

手続的にも、担当課に任せ、担当課で係長や課長が責任もってやれば不正は防ぐことができます。

ましてや、監査で厳しくチェックすれば不正や失敗が発生する確率は何万件に1回あるかどうかでしょう。

民間では、100万円程度まで担当課長の判断に任せていると聞いたことがありますが、役所では未だに職員は全然信用されていないということなのでしょうか。

そうではありません。かつてそういう時代があって、その仕組みが見直されず、続いているだけなのです。

3 行政にムダはないか?

次に、役所には、主事(事務官)、主任~部長、局長、(事務次官)という8~10もの職位があって、中間管理職が多数います。

書類はこの間を時間をかけて回ってやっと実施に移ります。

早くても2,3日、他部局まで関連するものは3,4か月かかるものもあります。

また、役所では、中小企業を支援したり、働く女性の支援をしたり、道路を通すような事業部門は傍流です。

本来は、国民・住民の行政サービスを担う事業部門が主流でなければならないのですが、そこには予算や人事等の権限はありません。

どういう金融支援をするか、待機児童をどう解消するか、どの橋を先に架け替えるか等は、街づくりや産業振興などの政策と密接な関係があり政策判断すべきものですが、本来財務管理を担当する予算担当者の経理的な視点で決められてきました。

最近でこそ政策部門を作って政策評価を行う自治体が出てきましたが、

まだまだ不十分です。民間では、総務や経理と言えば、ショムニ(庶務二課)に代表されるように社員の下支えなのですが、役所では、総務は予算、人事、財産管理などの権限を持ち、主流です。

そういう間接部門が、適正な管理のためとはいえ事細かな規程類を作って事務を煩雑にし、結果として実権を握る仕組みになっています。

直接住民・国民のために行政サービスに携わる職員に対し、ハンコをついている職員の割合が民間に比べて多いのです。

複雑な手続と時間を要する仕事を維持するためにいわゆる間接部門の公務員が全国に何十万人といます。

この間接部門の業務の効率化を図れば、

仕事の処理は早くなり、コストは大幅に減るのです。

住民・国民の負担は軽減できます。

4 間接部門を削減できないか?

行政改革は、その必要性を永らく叫ばれながら、土光臨調以来ほとんど成果を上げることができないで来ています。

今必要なのは、これまでの定員削減や組織改革などの部分最適な手法ではなく、

役所の仕事そのもののやり方を変えること即ち役所の業務革新(イノベーション)を行うことです。

役所はいろんな面で昔のままですが、民間では既に製造部門においてQC、

TQCなどの改善活動によってムダ取りを行い、

さらに工場などにおける間接部門に広め、今では本社などの事務部門にまで業務革新(イノベーション)を広げようとしています。

これまで、業務革新(イノベーション)は、工場などの製造現場の手法と思われてきましたが、近年、事務管理等の間接部門においても展開されるようになってきました。

まさにホワイトカラーの業務革新(イノベーション)が必要とされてきているのです。

国民・住民の負託によって運営されている国や地方自治体では、なおさら業務革新が必要なのです。

5 業務革新(イノベーション)できないか

役所にはムダな仕事がないと思っている方も多いかと思いますから、

改革の余地のある役所のムダの典型例を掲げてみます。

行政においては、

①手待ちのムダ

②動作のムダ

③つくり過ぎのムダ

④在庫のムダ

⑤運搬のムダ

⑥加工のムダ 

があると思います。

製造現場においては、7つのムダがあると言われていますが、事務管理部門では、

そのうちの⑦不良のムダは、はずしてあります。

製品の場合、不良というのは一目瞭然でしょうが、役所の場合、

50点の出来の政策でも、上司や首長がそれを選択すれば、

おかしいという意見が多くても実施されます。

結果は有権者が選挙を通して評価するという仕組みですので、

不良かどうかは職場で客観的に判断しにくいため、はずしてあります。

まず、①手待ちのムダ、ですが、決裁を待つ時間、協議を待つ時間などが役所の場合、

最大のムダな時間です。これを短縮すれば大幅に時間を短縮できます。

私が人事課長になったときのことです。

会議から戻ったら、職員が私の机の前に何人も並ぶのです。

何をしているのか聞いたら、課長の決裁をもらいたいというのです。

「並ぶ必要はないよ。決裁書類を置いていって。わからないとこがあったら聞くから。」といっても、なかなか戻りません。

「待っている間に別の仕事ができるでしょう。」といわれて、

やっと机に戻りました。以前は、一つひとつ説明して決裁をもらうという仕組みにしていたようです。

職員の育成の一環ということのようですが、

決裁プロセスの改善のために電子決裁の仕組みを導入しているのに、決裁書類を持って回って決裁を受けなければならないのでは膨大な時間を要します。

それは、②の動作のムダ、⑤の運搬のムダにも当たります。

②動作のムダは、動きとして、いろんな課を往復しているような仕事の仕方をしていないかということです。

よくあるのは、支出関係で、会計担当課を何度も行き来している場合です。

財務会計を電子決裁化すれば足りることです。

③のつくり過ぎのムダは、課の業務概要とか議会資料とか、毎年恒例として作っているものが多数ありました。

いわく、他の自治体からの来客の際に説明資料として使うとか、議会対策としてまとめておく必要があるとかです。

しかし、業務概要など印刷会社のためにやっているようなもので、パソコンを使って原稿を作り、必要の都度必要部数だけ印刷させるようにして、印刷会社に頼むことをやめました。

また、議会資料も、業務概要の面と想定質問の面があるのですが、想定質問は議会で質問が出たらどうせ作るのですから前もって作る意味はありませんし、資料集は上司や首長の勉強用資料で、議会前に状況把握のために1通り見るくらいですから業務概要で足ります。そういう作り過ぎのムダも役所にはいっぱいあります。

また、100部とか200部とか印刷し倉庫に余っている業務概要は④の在庫のムダでもあります。

さらにどんな資料もワンペーパーにまとめるようにさせます。それによって会議における冗長な進行や説明を防ぐことができます。

④在庫のムダの典型は、文房具や事務用品です。職員の机に、何本ものボールペンやマーカーなどが入っていませんか。

人事課では、職員に当面必要な量を取ってもらって、それ以外のものをいったん返却してもらいました。

ボールペンから消しゴム、ものさし、ホッチキス、千枚通しなどが何十本、何十個と集まりました。

新しいものを出さないで、それらの中古品からまず使ってもらうこととしました。

次に、これらの消耗品の管理は各課や各部局になっていると思いますが、長期間保管されてインクが出なくなったりするなどムダも発生するため、在庫量の管理を強めました。

④運搬のムダは、役所の場合、典型は文書の持ち運びです。

電子決裁を強めることによって減らすことができますが、担当課から他の課、部局に合議する方法を簡素化しました。

担当部局で決裁になった書類を他部局に合議した場合、それまでは他部局の担当課の担当職員から係長、課長補佐、課長、次長、部長というように全部一からハンコをもらっていたものを各部局の主管室の管理担当課長が見て、すでに両部局間で協議が整っているものについては担当課にまわすことなく、管理担当課長から総括課長、次長部長の決裁とすることにしました。

これも電子決裁を導入すれば片付くムダです。

  加工のムダは、起案用紙の資料や会議の配布資料全部に時間をかけてインデックスをいっぱいつける(ページをふっておけば何ページをお開きくださいで済むから不要)とか、決裁権がない中間管理職が起案文書の表現(言い回し)の修正に時間をかけている例とか、逆に資料の重要なところにマーカーしておらず全部読まなければわからないような資料の作り方や、一文字違ってもコピーを取り直して作り直す資料の作り方など、自己満足のためにやっているとしか思えないものもあります。

これらは、対外的な場合だけはコピーを仕直すが内部の資料は訂正で済ます、といったルールさえ作っておけばムダを省けます。

  これらは一例ですが、ムダ取りはこれまでほとんど行われていない事務管理部門では驚くほどありますから、少し取り組むだけでも大きな成果をあげることができます。

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